2005年11月21日

ヤップ島旅日記・3

9月19日
せっかく南の島に来たんだから、何が何でも青い海に行きたかった。お家の前に広がる水辺は、海につながる湾になっているのだけれど、とても美しいとは言えなくて、はやくはやく、青い海を見てみたかった。昔はここもきれいだったんだという話を聞いた。戦時中、どこかの軍隊がこの入り江をぐるっとまわるのが面倒だからと、橋をとりつけたんだそう。それで水の流れが悪くなり、こんな風に水は汚れてしまった。きっと人間の「面倒」を克服するために、自然はすこしずつ、汚されてきたんだろう。
そんな入り江からボートを出す。わたし、母、親戚のおじさん、お家の息子さんと娘さん、助手の漁師さんの6人で、いざ出発だ。お父さんが笑顔で手をふりながら、「サメを見つけたらすぐにボートにあがるんだよ」。サメ!そういえば、やっぱりいるんだよな。お父さんの体にはサメに襲われたときの深い傷がある。わたしになんて到底想像の及びようのない生活がある。世界各地に、いっぱいある。ほんのすこしのぞき見をさせてもらうことで、なんだか自分自身の生活に、彩りが加えられていくような気がするのだ。
サメか。未知の生き物に対して、恐怖とも興味とも言いようのない気持ちがむくむく膨らんで(たぶんほとんど恐怖)、サメのことで頭がいっぱいになりそうになったけれど、わたしを迎えてくれたのは、そんなことは許してくれないような荒れた海。サメ以外にも、海にはこわいものがあったのだ。勝手な想像で、南の海はみどり色で穏やかなものと思い込んでいた。人の背丈ほどもありそうな波に乗っかって、急降下。ざっぱーん、と塩っからい波が全身に降ってきて、ぎゃーぎゃー悲鳴をあげるわたしをみんな、笑っている。少し慣れて、波がおもしろくなってきたころ、(残念ながら)荒れ地を過ぎて、海は穏やかな表情を取り戻した。

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そこかしこに環礁のエメラルドグリーンが輝いていた。太陽を浴びてきらきらと、とっても美しい、美しいとしか言いようのないエメラルドグリーン。ここは内海で、さっきの荒れたところが外海なんだと、息子さんが教えてくれた。この季節は海が荒れやすく、外海での釣りは難しいんだそう。もちろん大きな獲物は外海にいるのだけれど、今日はへっぽこ初心者日本人が2人もいるので、穏やかな内海に連れていってくれたのだ。それに人々のイメージする「南の海」は、まさに内海だから。きれいきれい、すごいすごいと騒ぐわたしたち親子を尻目に、みんなおのおの釣竿をとり出して、しゅっとすばやく海へ投げていく。ふと気付けば、娘さんは走るボートからざぶん、と海に飛び込んでいる。すいすいと気持ちよさそうに泳いでいくその様は、まるで魚のよう。わたしもおいでよ、と誘われるけれど、実はカナヅチで、足のつかないところではとてもおそろしくて泳げない。足がつくところまでがまん、がまん。
うっとり見ほれるこんな美しい海、けれど彼らにとっては生活の海で、ただ当たり前にそこにあるものなんだろうな。

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浅瀬に到着。ボートを停めて、じゃぶん、と海へ飛び込んだ。ここは足がつくもんね。サメはどこにいるんだろう。なまあたたかくて心地いい。

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モリを持って、すいすい泳ぎまわる息子さん。ぎゅんっと潜水したり、かと思えば、遠く離れたところからいきなり浮き上がったり。まるで魚みたい。軽やかで、しなやかで。海の民の泳ぎがそこにあった。ボートに戻ってきた彼の手には、大小さまざま、色あざやかな魚たちと、大きな2匹のロブスター。すばしっこい魚たちを、それも海がホームグラウンドである魚たちを、瞬時に捕らえること。ただただすごいなあ、と思った。

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ロブスターたち。(影が入って、へたくそな写真)

わたしもシュノーケルマスクを貸してもらって、ゆらゆら泳いだ。見えないサメの影におびえながら。水中に顔をつけると、色とりどりの魚たちが走りまわっていた。珊瑚にぶつからないよう気をつけながら、夢中であちこち泳ぎまわった。ぷかぷか揺れるイソギンチャク。そこに集まるちいさな魚たち。ふと、大きな魚が悠然と目の前を通りすぎることもあったり、海の世界はいつまでも飽きることのない、すてきな世界だった。呼吸が苦しくなって水上に顔をあげると、そこもまた、青と緑の鮮やかな世界。頭がぼーっとしてしまう。息を整えて、また、水の中へ。
あとでボートの上にいたおじさんに笑われた。息子さんはまるで魚のように、すべるように泳いでいるのに、お前はじたばたと泳いでるのか溺れてるのかわからん。仕方ないやん。わたしは海で生きてきたんじゃないもん。彼らは海の民。すいすいと、海をまるで自分の庭のように泳ぎまわることができるのだ。それにしても、自分ではなかなかスムーズにかっこよく泳げているような気がしていたのに、傍目にはそうじゃなかったとは。すこし残念。

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青い魚。アジの一種らしい。テンポよく、いろんな魚が釣れた。
漁師一味がちゃっちゃと鮮やかにさばいてくれて、みんなで海の上でお刺身を食べた。海の恵みに深い感謝を。持ってきたごはんをとり出して、海の水を手につけておにぎりをつくった。自然の塩の具合がちょうどよくて、とってもおいしい。海の恵みでお腹を満たす。まわりはひとっこひとり、船一台もなくしんと静かで、ボートはゆらゆら波のリズムに揺れている。ただただ澄み渡ったエメラルドグリーンの世界が広がっていて、そんな世界でみんな笑顔でおにぎりをほおばる。新鮮な魚たちがいる。こんなしあわせなことって、ないかもしれない。

そういえば前日の晩は満月だったのだ。満月の晩にはいろんな自然のショーが見られたはず、だった。ワタリガニがいっせいに海へ大移動するところ、とか、トビウオがひゅんひゅんはねるところ、とか。まんまるのお月様は冴え冴えと明るく、何かが起こっている予感を感じさせてくれた。おじさんに森か海へ連れていってよ、と頼んでみるも、みんなすっかり酔っ払っていて、まったく取り合ってくれなかった。ひとりで行ってやるか、と思うも土地カンはないわ、暗くてこわいわで、結局断念してしまった。
あ、これって中秋の名月だっけ。そんなことを思い出してみたけれど、ここは南のヤップ島。涼みゆく風に吹かれながら、深まる秋をしんみり感じるなんて遠い世界のお話のようで、世界ってひろいなと思った。まんまる明るいお月様は、ただやさしく、わたしを包んでくれた。耳をすませて。きっと今、この島のどこかで、カニたちが海へ向かって行進している。
posted by season at 13:36| Comment(0) | TrackBack(1) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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